行政事件訴訟法

第4章 行政事件訴訟法

第1節 行政事件訴訟の類型

重要度 A

学習のPOINT

行政事件訴訟には、①抗告訴訟、②当事者訴訟、③民衆訴訟、④機関訴訟の4つの類型があることを押さえましょう。次に、①抗告訴訟にはどのような類型があるかを押さえましょう。

1 行政事件訴訟

重接度 A

(1)行政事件訟とは何か

行政事件訴訟とは、国や地方公共団体の違法な行政作用により国民の権利が侵害された場合に、裁判所に対してその行政作用の是正を求める制度のことです。この行政事件訴訟の手続について規定しているのが、行政事件訴訟法です。※1

※1 参考

行政機関自身に対して行政作用の是正を求める制度は行政不服申立てであり、その手続について規定しているのが行政不服番査法である(2. 第3章参照)。

(2)行政事件訴訟の類型

行政事件訴訟法は、行政事件訴訟として、①抗告訴訟、②当事者訴訟、③民衆訴訟、④機関訴訟の4種類を挙げています(2条)。

①抗告訴訟と②当事者訴訟は、国民の個人的な権利の保護を目的とする訴訟(これを主観訴訟といいます)です。主観訴訟は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たり、当然に裁判所の審査権が及びます。

これに対して、③民衆訴訟と④機関訴訟は、国民の個人的な権利の保護ではなく、客観的な法秩序の適正を目的とする訴訟(これを客観訴訟といいます)です。客観訴訟は、「法律上の争訟」に当たらず、当然に裁判所の審査権が及ぶわけではなく、法律において特に定めがある場合にのみ、提起することが許されます(42条)。

2 抗告訴訟

重要度 A

抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟のことです(3条1項)。

行政事件訴訟法は、抗告訴訟として、①処分取消訴訟(3条2項)、②裁決取消訴訟(3条3項)、③無効等確認訴訟(3条4項)、④不作為の違法確認訴訟(3条5項)、⑤義務付け訴訟(3条6項)、⑥差止め訴訟(3条7項)の6種類を挙げています。

もっとも、行政事件訴訟法は、抗告訴訟が上記の6種類に限定される趣旨を示していないため、これら以外の抗告訴訟(これを無名抗告訴訟といいます)が認められないわけではありません。

【行政事件訴訟の類型】

3 争点訴訟

重要度 B

争点訴訟とは、処分・裁決の存否または効力の有無が争点となっている私法上の法律関係に関する訴訟のことです(45条)。※2

これは、行政事件訴訟ではなく、行政処分の効力を前提問題として争う民事訴訟※1です。

※2 具体例

例えば、都道府県収用委員会による収用裁決の無効を前提とした所有権の確認を求める土地所有者の訴えなどである。

※1用語

民事訴訟:私人間の権利義務に関する紛争を解決すること。

解答 確認テスト

①行政事件訴訟法は、行政事件訴訟として、抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟および刑事訴訟の4種類を挙げている。

【解答】✕刑事訴訟ではなく機関訴訟である(2条)。あとは正しい。

②民衆訴訟と機関訴訟を合わせて客観訴訟といい、法律において特に定めがある場合にのみ例外的に提起することが許される。

【解答】◯(42条)

③行政事件訴法は、同法に規定されている6種類以外の抗告訴訟を認めていない。

【解答】✕無名抗告訴訟として認めている。

④争点訴訟とは、処分・裁決の存否または効力の有無を前提問題とする私法上の法律関係に関する訴訟のことであり、行政事件訴訟の一種である。

【解答】✕争点訴訟は行政事件訴訟ではなく、行政処分の効力を前提問題として争う民事訴訟である。

「基本問題集」行政法問題57にチャレンジ

第2節 取消訴訟

重要度 A

1取消訴訟の種類

重要度 A

(1)取消訴訟の種類

取消訴訟には、処分取消訴訟(3条2項)と裁決取消訴訟(3条3項)の2種類があります。

【取消訴訟】

処分取消訴訟行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為の取消しを求める訴訟
裁決取消訴訟審査請求その他の不服申立てに対する行政庁の裁決・決定その他の行為の取消しを求める訴訟

(2)処分取消訴訟と裁決取消訴訟の関係

①原処分主義

処分に不服がある者が審査請求をしたものの、これを認めない裁決がなされた場合、もともとの処分(これを原処分といいます)の違法を主張して処分取消訴訟で争うことも、審査請求を認めない裁決の違法を主張して裁決取消訴訟で争うこともできます。

もっとも、原処分の違法を主張して裁決取消訴訟で争うことはできません(10条2項)。このような主張を認めると、裁判所が原処分と裁決のどちらについて審理・判断すればよいか混乱してしまうからです。そこで、原処分の違法を主張して争いたいのであれば、原処分の取消訴訟を提起しなければならないということになります。これを原処分主義といいます。※2

※2 参考

原処分主義によると、裁決取消訴訟では、裁決固有の瑕疵(裁決権限のない行政庁が裁決を行ったことや、裁決の手続が達法であること)についてのみ主張することができる。

【原処分主義】

② 裁決主義

行政事件訴訟法以外の個別の法律により、処分に不服がある者が審査請求をしたものの、これを認めない裁決がなされた場合には、裁決取消訴訟のみ提起することができるとされている場合があります。※1

このような場合には、原処分の違法についても裁決取消訴訟で争うことになります。これを裁決主義といいます。 ※2

【裁決主義】

※1 具体例

例えば、公職選挙法203条2項は、「地方公共団体の議会の議員及び長の選挙の効力に関する訴訟は、・・・異議の申出又は審査の申立てに対する都道府県の選挙管理委員会の決定又は裁決に対してのみ提起することができる。」と規定している。

※2 過去問チェック

個別法が裁決主義を採用している場合においては、元の処分に対する取消訴訟は提起できず、裁決取消訴訟のみが提起でき、元の処分の達法についても、そこで主張すべきこととなる。

【解答】〇

2取消訴訟の訴訟要件

重要度 A

取消訴訟の流れは、以下の図のようになります。

【取消訴訟の流れ】

取消訴訟が提起された場合、まず、訴訟要件※3を満たしているかを調査します。これは、違法な訴訟を排除することによって、裁判を開いたり相手方を裁判所に出頭させたりする時間と労力の無駄を省くためです。

取消訴訟の訴訟要件は、以下の7つです。このうち1つでも穴けている場合は、取消訴訟を提起することができません。

※3 用語

訴訟要件:訴訟を提起するために満たさなければならない条件のこと。

【取消訴訟の訴訟要件】

1 行政庁の処分または裁決が存在すること(処分性)

2 訴訟を提起する資格を有していること(原告適格)

3 訴訟を提起する実益があること(訴えの利益)

4 相手方を間違えずに訴訟を提起していること(被番適格)

5 管轄※4する裁判所に対して訴訟を提起していること(裁判管轄)

6 法定の期間内に訴訟を提起していること(出訴期間)

7 法律によって審査請求に対する裁決を経た後でなければ訴訟を提起することができないとされている場合に、これを経ること(審査請求前置)

※4 用語

管轄:裁判所の間での裁判の分担の定めのこと。

(1) 処分性

取消訴訟の対象となる「処分」とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもののことです(最判昭39.10.29)。※5

※5 記述対策
最高裁判所の判例が示した「処分」の定義は書けるようにしておきましょう。

処分性が認められるためには、「公権力の主体たる」国または公共団体が行う行為であることが要求されますから、私法上の行為については、処分性が否定されるのが通常です。

また、処分性が認められるためには、「直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定すること」が要求されますから、
①行政機関の内部的行為、
②一連の段階を経て行政作用が進行する場合の中間的行為、
③単なる法律的見解の表示行為などの事実行為、
④行政立法や条例の制定などの規範定立行為

については、処分性が否定されるのが通常です。
しかし、私法上の行為や、内部的行為・中間的行為・事実行為・規範定立行為であっても、処分性を認めた判例があります。

最重要判例

◯土地区画整理事業※6の事業計画決定の処分性(最大判平20.9.10)

事案 市が、土地区画整理事業の事業計画の決定をし、その公告をしたところ、その施行地区内に土地を所有している者が、本事業計画は違法であると主張して、本件事業計画の決定の取消訴訟を提起した。そこで、本件事業計画の決定に処分性が認められるかが争われた。

結論 処分性が認められる。

判旨 市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。したがって、上記事業計画の決定は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。

※6用語

土地区画整理事業:公共施設を整備するために土地を提供してもらい、土地の凶画を整形した上で再配分する事業のこと。

最重要判例

◯特定の保育所を廃止する条例の制定の処分性(最判平21.11.26)

事案 市が設置する保育所を廃止する条例を制定したことについて、当該保育所で保育を受けていた児童の保護者が、当該条例の制定行為は保育所において保育を受ける権利を違法に侵害するものであると主張して、その取消訴訟を提起した。そこで、当該条例の制定行為に処分性が認められるかが争われた。

結論 処分性が認められる。※1

判旨 本件改正条例は、本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童およびその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる。

※1 参考

この判例は、特定の保育所を廃止する条例の制定について処分性を認めつつも、訴えの利益は当該保育所で保育を受けていた原告ら児童の保育の実施期間が満了した場合には消滅すると判示し、訴えを却下した。

【処分性に関する判例のまとめ】

認められる
その行為によって、あなたのの権利や義務が『今、直接』動いたか?
認められない
私法上の行為①供託金取戻請求に対する供託官の却下(最大判昭45.7.15)
②労働基準監督署長による労災就学援護費の支給決定(最判平15.9.4)
①国有財産法上の普通財産の払下げ(最判昭35.7.12)
②農地法に基づく農地の売払い(最大判昭46.1.20)
内部的行為①建築許可に対する消防長の同意(最判昭34.1.29)建築主事(役所の人)へのOKサインにすぎない → なし
②通達(最判昭43.12.24)
中間的行為①第二種市街地再開発事業計画 ※2の決定(最判平4.11.26)②土地区画理事業の事業計画の決定(最大判平20.9.10) 再開発と区画整理、計画段階で勝負(処分)あり!都市計画決定としてなされる用途地域の指定(最判昭57.4.22)
事実行為①輸入禁制品該当の通知(最判昭54.12.25)これが来ると通関できない(事実上の輸入禁止) → あり
②病院開設中止勧告(最判平17.7.15)従わないと保険医になれない(事実上の営業不可) → あり
③登録免許税の還付請求に対する拒否通知(最判平17.4.14)
①反則金の納付通知(最判57.7.15)
払いたくなければ払わず、刑事裁判で争える → なし
②開発許可に係る公共施設管理者の同意(最判平7.3.23)
③市町村長が住民票に世帯主との続柄を記載する行為(最判平11.1.21)
規範定立行為①建築基準法42条2項の道路指定が告示による一括指定の方法でされた場合(最判平14.1.17)
②特定の保育所を廃止する条例の制定(最判平21.11.26)特定の園児が困る → あり
簡易水道事業の水道料金を改定する条例の制定(最判平18.7.14)
市民全員の話 → なし

※2用語

第二種市街地再開発事業計画:土地を買収してその土地に高層の再開発ビルを建築することで公共施設用地を生み出し、買収された土地の所有者に対して再開発ビルの床を与える事業計画のこと。

補足

判例における「処分」の定義(処分性の判断基準)は、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」であるか否か

 処分性が「認められる」場合

 処分性が肯定されるのは、その行為が国民の権利に対し「直接的」「最終的」な法的影響を与える場合。

処分性が「認められない」場合

 処分性が否定されるのは、その行為がまだ「中間的」「内部的」であるか、「一般的・抽象的」にとどまる場合。

(2)原告適格

① 原告適格とは何か

原告適格とは、個別の事件において訴訟を提起する資格のことです。

取消訴訟の原告適格は、処分・裁決の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に限り認められます(9条1項)。※3

そして、「法律上の利益を有する者」とは、その処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害されまたは必然的に侵害されるおそれのある者をいいます(最判平1.2.17)。※4

※3 具体例

例えば、申請拒否処分を受けた申請者や、不利益処分を受けた名あて人などである。

※4 記述対策

最高裁判所の判例が示した「法律上の利益を有する者」の定義は書けるようにしておきましょう。

② 原告適格を判断する際の考慮事項

9条2項により、処分の相手方以外の者について「法律上の利益」を有するか否かを判断する際の考慮事項が明示されています。これは、「法律上の利益」の有無を判断する際の考慮事項を法定することにより、取消訴訟の原告適格を拡大しようとしたものです。

【9条2項の挙げる考慮事項】

当該処分・裁決の根拠法令の趣旨・目的当該処分において考慮されるべき利益の内容・性質
根拠法令の趣旨・目的を考慮するにあたっては、当該法と目的を共通にする関係法令があるときは、その趣旨・目的をも参酌する当該利益の内容・性質を考慮するにあたっては、当該処分・裁決が根拠法令に達反してなされた場合に害される利益の内容・性質、これが害される態様・程度をも勘案する

③ 判例の判断

判例は、原告適格について、以下のように判断しています。※1

※1 受験テクニック

判例は、文化財や鉄道のように利益を享受する者が国民全体であるような場合には、原告適格を認めることに消極的であるのに対し、生命・身体など個人の利益が侵害されている場合には、原告適格を認める傾向にあることを押さえておきましょう。

最重要判例

◯小田急高架(最大判平17.12.7)

事案 小田急小田原線の一定区間の連続立体交差化を内容とする都市計画事業認可がなされたため、事業地の周辺住民が、当該都市計画事業認可の取消訴訟を提起した。そこで、事業地の周辺住民について、取消訴訟の原告適格が認められるかが争われた。

結論 騒音・振動等による健康または生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者については、原告適格が認められる。

判旨 都市計画法は、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るなどの公益的見地から都市計画施設の整備に関する事業を規制するとともに、騒音・振動等によって健康または生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して、そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって、都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち該事業が実施されることにより騒音・振動等による健康または生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有するものといわなければならない。

最重要判例

◯場外車券発売施設設置許可と原告適格(最判平21.10.15)

事案 経済産業大臣が自転車競技法に基づき場外車券発売施設の設置の許可をしたため、当該施設の周辺住民や医療施設開設者が、当該設置許可の取消訴訟を提起した。そこで、これらの者について、取消訴訟の原告適格が認められるかが争われた。

結論 当該施設から約120mから200m離れた場所に医療施設を開設する者については、原告適格が認められる。

判旨

①周辺住民の原告適格

自転車競技法が保護しようとしているのは、第一次的には、心身共に健康な青少年の育成や公衆衛生の向上および増進といった不特定多数者の利益であるところ、それは、性質上、一般的公益に属する利益であって、原告適格を基礎付けるには足りない。したがって、場外車券発売施設の周辺において居住しまたは事業(文教施設または医療施設に係る事業を除く。)を営む者や、周辺に所在する文教施設または医療施設の利用者は、当該設置許可の取消訴訟の原告適格を有しない。

②医療施設等開設者の原告適格

場外車券発売施設の設置、運営により保健衛生上著しい支障を来すおそれがあると位置的に認められる区域に文教施設または医療施設を開設する者は、当該設置許可の取消訴訟の原告適格を有する。※2

※2 過去問チェック

自転車競技法に基づく場外車券発売施設の設置許可の処分要件として定められている位置基準は、用途の異なる建物の混在を防ぎ都市環境の秩序有る整備を図るという一般的公益を保護するにすぎないから、当該場外施設の設置・運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に医療施設等を開設する者であっても、位置基準を根拠として当該設置許可の取消しを求める原告適格は認められない。

【解答】✕

【原告適格に関する判例のまとめ】

対象原告適格の有無
営業上の利益質屋の営業許可処分既存の質屋営業者
✕(最判昭34.8.18)質屋営業法は「盗品の流通防止(警察的な目的)」がメイン。「既存の質屋さんの利益を守る」わけではない
公衆浴場の営業許可処分既存の公衆浴場業者◯(最判昭37.1.19) ※3
公衆浴場法は「国民の衛生」を守るために、「業者の経営を安定させること」自体を目的にしている
文化的利益史跡指定解除処分学術研究者×(最判平1.6.20)
消費者の利益ジュースの表示規約の認定一般消費者×(最判昭53.3.14)
特急料金認可特別急行旅客列車の利用者×(最判平1.4.13)
生命・身体の安全や健康上の利益林地開発許可健康・生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある事業地の周辺住民〇(最判平13.3.13)
総合設計許可※1建築物の倒壊・炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の建築物の居住者〇(最判平14.1.22)
建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物の居住者〇(最判平14.3.28)
定期航空運送事業免許航空機の騒音によって社会通念上著しい障害を受けることとなる飛行場周辺住民◯(最判平1.2.17)
都市計画事業認可健康・生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある事業地の周辺住民◯(最大判平17.12.7)
善良な風俗等の居住環境上の利益風俗宮業許可風俗営業制限地域に居住する者×(最判平10.12.17)
場外車券発売施設設置許可当該施設の設置、運営により保健衛生上著しい支障を来すおそれがあると位置的に認められる区域内の医療施設開設者O(最判平21.10.15)
自転車競技法という法律が、わざわざ「病院や学校の近くには作らないように」と書いてある
当該施設の周辺住民×(同判例)「一般の住宅」までは守ると書いていない

※3 過去問チェック

公衆浴場法の適正配置規定は、許可を受けた業者を濫立による経営の不合理化から守ろうとする意図まで有するものとはいえず、適正な許可制度の運用によって保護せらるべき業者の営業上の利益は単なる事実上の反射的利益にとどまるから、既存業者には、他業者への営業許可に対する取消訴訟の原告適格は認められない。

【解答】✕

※1 用語

総合設計許可:建築基準法に基づき、都市計画で定められた制限よりも容積率、高さ制限などを緩和して建築を許可すること。

(3)訴えの利益

訴えの利益とは、訴訟を提起する実益のことです。つまり、原告の請求が認容された場合に、原告の具体的な権利が回復可能でなければならないといえます。

訴えの利益は、期間の経過、処分の効果の完了、原告の死亡、代替的措置、新たな事情の発生などにより処分の効果が失われた場合には、消滅するのが原則です。

もっとも、9条1項かっこ書は、処分の効果が失われた後でも、処分の取消しにより回復すべき法律上の利益を有する者について、訴えの利益を認めています。※2

※2 過去問チェック

処分の取消訴訟は、処分の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においても、なお、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者であれば提起することができる。

【解答】〇

最重要判例

◯運転免許更新処分と訴えの利益(最判平21.2.27)

事案 道路交通法所定の違反行為があったとして、優良運転者である旨の記載のない運転免許証を交付されて更新処分を受けた者が、違反行為を否認し、当該更新処分および当該更新処分についての異議申立てに対する棄却決定の取消訴訟、優良運転者である旨の記載のある運転免許証を交付して行う更新処分の義務付け訴訟を提起した。そこで、更新処分を受けた者に訴えの利益が認められるかが争われた。

結論 訴えの利益は認められる。

判旨 道路交通法は、優良連転者に対し更新手続上の優遇措置を講じており、客観的に優良連転者の要件を満たす者に対しては優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して更新処分を行うということを、単なる事実上の措置にとどめず、その者の法律上の地位として保障するとの立法政策を採用したものと解するのが相当である。したがって、一般運転者として扱われ、優良運転者である旨の記載のない免許証を交付されて更新処分を受けた者は、当該法律上の地位を否定されたことを理由として、これを回復するため、当該更新処分の取消しを求める訴えの利益を有する。

【訴えの利益に関する判例のまとめ】

対象処分後の事情訴えの利益の有無
期間の経過皇居外苑使用不許可処分使用期日の経過✕(最大判昭28.12.23)
運転免許取消処分免許証の有効期間の経過◯(最判昭40.8.2)
運転免許停止処分無違反・無処分で停止処分の日から1年を経過(免許停止は30日)✕(最判昭55.11.25)
処分の効果の完了建築確認※3建築工事の完了✕(最判昭59.10.26)
土地改良事業※4 施行認可処分工事が完了して原状回復が不可能◯(最判平4.1.24)物理的には戻せないけど、法的な権利関係をクリアにする意味はまだ残っている
市街化区域内の開発許可工事が完了して検査済証が交付✕(最判平5.9.10)
市街化調整区域内の開発許可同上◯(最判平27.12.14)
市街化調整区域は「建物の除却(取り壊し)」を命令できる権限が復活
原告の死亡生活保護変更決定保護受給者たる原告の死亡✕(最大判昭42.5.24)※1
公務員免職処分原告公務員の死亡◯(最判昭49.12.10)
代替的措置保安林指定解除処分代替施設の設置✕(最判昭57.9.9)
新たな事情の発生再入国不許可処分原告たる在留外国人が日本出国✕(最判平10.4.10)
公文書非公開決定公文書が書証として提出◯(最判平14.2.28)
9条1項かっこ書の適用公務員免職処分原告公務員が公職へ立候補◯(最大判昭40.4.28)
運転免許更新処分優良運転者である旨の記載のない免許証を交付◯(最判平21.2.27)

※3 参考

建築確認は、それを受けなければ建築等の工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎない。

※4 用語

土地改良事業:農業生産の基盤の整備・開発を図り、農業の生産性の向上・農業構造の改善等に資することを目的として行われる農用地の改良・開発・保全・集団化に関する事業のこと(土地改良法1条1項)。

※1 過去問チェック

生活保護法に基づく保護変更決定の取消しを求める利益は、原告の死亡によって失われず、原告の相続人が当該訴訟を承継できる。

【解答】✕

(4)被告適格

取消訴訟の被告とすべきものは、以下のとおりです。※2

【取消訴訟の被告適格】

処分・裁決をした行政庁が国または地方公共団体に所属する場合被告は国または公共団体(11条1項)
所属しない場合被告は当該行政庁(11条2項) ※3

※2 参考 原告が故意または重大な過失によらないで被告とすべき者を誤ったときは、裁判所は、原告の申立てにより、決定をもって、被告を変更することを許すことができる(15条1項)。

※3 具体例 例えば、弁護士に対して懲戒処分をなした弁護士会などである。

(5) 裁判管轄

取消訴訟は、被告の普通裁判籍 ※4の所在地を管轄する裁判所または処分・裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所の管轄に属します(12条1項)。また、取消訴訟の内容によっては、以下のような裁判所にも提起することができます。

【取消訴訟の管轄】

土地の収用・鉱業権の設定その他不動産または特定の場所に係る処分・裁決についての取消訴訟その不動産または場所の所在地の裁判所(12条2項)
すべての取消訴訟処分・裁決に関し事案の処理に当たった下級行政機関の所在地の裁判所(12条3項)
国または独立行政法人通則法2条1項に規定する独立行政法人もしくは別表に掲げる法人を被告とする取消訴訟原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所(特定管轄裁判所)(12条4項)

※4 用語 普通裁判籍:事件の内容や種類を問わずに認められる裁判籍(そこを管轄区域に含む裁判所に管轄を発生させるもの)のこと。

(6) 出訴期間

行政上の法律関係は早期に安定させておく必要があるため、取消訴訟については出訴期間が法定されています。そして、この期間を経過すると、不可争力が生じ、取消訴訟を提起することができなくなります。

【出訴期間】

主観的出訴期間客観的出訴期間
原則処分・裁決があったことを知った日から6か月以内(14条1項本文)処分・裁決の日から1年以内(14条2項本文)
例外①正当な理由があるとき →出訴期間を経過しても取消訴訟を提起できる(14条1項ただし書・2項ただし書)②処分・裁決につき審査請求できる場合または行政庁が誤って審査請求できる旨を教示した場合において、審査請求されたとき →これに対する裁決があったことを知った日(主観的)または裁決の日(客観的)が起算点となる(14条3項)

(7) 取消訴訟と審査請求の関係(審査請求前置)

① 原則(自由選択主義)

行政処分に対し行政不服審査法その他の法令により行政庁に対し審査請求をすることができる場合、国民は、審査請求をすることも、直ちに取消訴訟を提起することもできます(8条1項本文)。

② 例外(審査請求前置主義)

法律によって審査請求に対する裁決を経た後でなければ取消訴訟を提起することができないとされている場合は、これを経なければなりません(8条1項ただし書)。※1※2

もっとも、以下の場合には、直ちに取消訴訟を提起することができます(8条2項)。

1 審査請求をした日から3か月を経過しても裁決がない場合

2 処分・処分の執行・手続の続行により生する著しい損害を避けるため緊急の必要がある場合

3 裁決を経ないことにつき正当な理由がある場合

※1 具体例 例えば、国税通則法115条1項本文は、「国税に関する法律に基づく処分・・・で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、審査請求についての裁決を経た後でなければ、提起することができない。」と規定している。

※2 参考 審査請求が不適法として却下された場合には、審査請求前置の要件を満たさない。もっとも、
審査庁が誤って適法な審査請求を不適法として却下した場合には、審査請求前置の要件を満たす(最判昭36.7.21)。

3取消訴訟の審理

重要度 B

(1)審理の対象

取消訴訟においては、処分の違法性のみが審理の対象となります。※3

また、処分の違法性全般が審理の対象となるわけではなく、取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができないとされています(10条1項)。これに違反した場合、棄却判決がなされます。※4

※3参考 行政不服申立てにおいては、処分の違法性のみならず、処分の不当性(処分が公益に適合しないものであるかどうか)も審理の対象となる。

※4 よくある質問 
Q.自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めた場合、却下判決ではなく棄却判決がなされるのはなぜですか? 
A.10条1項は、訴えを提起した者が法律上の利益を有すること(原告適格が認められること)を前提とする規定ですから、却下判決はなされないものの、審理においてなした主張が妥当でないことから、棄却判決がなされることになります。

(2) 審理手続

取消訴訟の審理手続については、行政事件訴訟法に定めがない事項が多く、そのような事項については、民事訴訟の例による※5こととされています(7条)。

① 訴訟の提起

取消訴訟の提起は、訴状を裁判所に提出してしなければなりません(7条、民事訴訟法134条1項)。

※5 用語 例による:1つの法令のまとまりのある制度全体を他の事項に当てはめること。

② 訴訟代理人の資格

取消訴訟においては、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができません(7条、民事訴訟法54条1項本文)。

③ 訴訟の審理

取消訴訟の当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論※6をしなければならないのが原則です(7条、民事訴訟法87条1項本文)。

※6 用語 口頭弁論:公開法廷において、当事者双方が対席し、裁判官の面前で、口頭で弁論や証拠調べをする審理方式のこと。

④ 事実・証拠の収集・提出

取消訴訟においていかなる事実を主張するか、また、主張された事実についていかなる証拠を収集するかについては、当事者に任せるべきとされています。これを弁論主義といいます。

しかし、行政事件訴訟の結果は公益に影響する場合が多く、客観的な真実を究明して審理や裁判の適正を図る必要があることから、職権証拠調べが認められています(24条本文)。ただし、その証拠調べの結果について、当事者の意見をきかなければなりません(24条ただし書)。

(3) 関連請求の併合

関連請求とは、取消訴訟の対象である処分・裁決と以下のような関係にある請求のことです(13条)。

【関連請求】

1 当該処分・裁決に関連する原状回復または損害賠償の請求

2 当該処分とともに1個の手続を構成する他の処分の取消しの請求

3 当該処分に係る裁決の取消しの請求

4 当該裁決に係る処分の取消しの請求

5 当該処分・裁決の取消しを求める他の請求

6 その他当該処分・裁決の取消しの請求と関連する請求

審理の重複を回避し、矛盾した裁判を避けるため、以下のような関連請求の併合が認められています。

① 請求の客観的併合

請求の客観的併合とは、当初から1つの訴えで数個の請求をすることです。16条は、取消訴訟に関連請求に係る訴訟を併合して提起することを認めています。※1

※1 具体例 例えば、行政処分の取消しと併せて当該処分に係る事務の帰属する国または公共団体に対する損害賠償請求(国家賠償請求)をする場合などである。

② 請求の追加的併合

請求の追加的併合とは、1つの訴えが係属している間に他の請求を追加することです。18条は第三者による請求の追加的併合を、19条は原告による請求の追加的併合を認めています。

③ 共同訴訟

共同訴訟とは、1つの訴えで複数の原告が数個の請求をし、または、複数の被告に対して数個の請求をする場合のことです。17条は、取消訴訟と関連請求である場合に、共同訴訟を提起することを認めています。

(4)訴えの変更

裁判所は、取消訴訟の目的たる請求を当該処分・裁決に係る事務の帰属する国または公共団体に対する損害賠償その他の請求に変更することが相当であると認めるときは、請求の基礎※3に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、原告の申立てにより、決定をもって、訴えの変更を許すことができます(21条1項)。※2訴訟資料をそのまま利用できるなど、原告の負担を軽減することになるため、訴えの変更が認められています。

※2 記述対策 訴えの変更の要件は「請求の基礎に変更がなく」「口頭弁論の終結前であり」「原告の申立てがあること」の3つである点は書けるようにしておきましょう。

※3 請求の基礎: 原告が裁判所に求める結論(請求の趣旨)を法的に裏付ける、具体的な事実関係(請求の原因)のこと
具体例: 請求の趣旨が「○○円支払え」という結論なら、請求の基礎は「なぜその金銭を請求できるのか」という具体的な事実(貸した、売ったなど)

(5)訴訟参加

訴訟参加とは、係属中の訴訟に第三者が参加することです。行政事件訴訟法は、第三者の訴訟参加と行政庁の訴訟参加について規定を置いています。

① 第三者の訴訟参加

訴訟の結果により権利を害される第三者に権利を防御する機会(手続保障)を与えるため、裁判所は、当事者・第三者の申立てによりまたは職権で、このような第三者を訴訟に参加させることができます(22条1項)。

② 行政庁の訴訟参加

訴訟資料を豊富にし客観的に公正な事件の解決を図ることができるようにするため、裁判所は、当事者・行政庁の申立てによりまたは職権で、処分・裁決をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させることができます(23条1項)。

(6) 釈明処分の特則

民事訴訟においては、訴訟の当事者が所持している物についてのみ釈明処分※3をすることが認められています(民事訴訟法151条)。しかし、行政事件訴訟においては、行政事件訴訟の審理を充実・促進させるという観点から、裁判所が必要と認めるときは、訴訟の当事者が所持しているものでなくても、被告である国や公共団体に所属する行政庁に対して、その保有する処分の理由を明らかにする資料を提出させることができます(23条の2)。これを釈明処分の特則といいます。※4

※3用語 釈明処分:裁判所が訴訟の当事者に対して必要な資料の提出をさせる処分のこと。

※4 記述対策 「釈明処分の特則」という用語は響けるようにしておきましょう。

4取消訴訟の判決

重要度 A

取消訴訟は、原告が訴えを取り下げた場合などを除き、裁判所がなした判決によって終了することになります。

(1)判決の種類

取消訴訟の判決には、①却下判決、②棄却判決、③認容判決の3種類があります。なお、②棄却判決と③認容判決を合わせて本案判決といいます。

【判決の種類】

①却下判決本案判決
取消訴訟の訴訟要件が欠けており不適法であるとして、審理を拒絶する判決審理の結果を表明する判決
②棄却判決③認容判決
取消しを求める請求に理由がない(処分・裁決が適法である)として、請求を退ける判決取消しを求める請求に理由がある(処分・裁決が違法である)として、処分・裁決を取り消す判決

処分・裁決が違法である場合、認容判決がなされるのが通常ですが、処分を取り消すことにより公の利益に著しい障害が生じるときは、棄却判決をすることもできます(31条1項前段)。これを事情判決といいます。この事情判決は、私人の利益の保護よりも、公共の福祉を実現する制度といえます。※1
裁判所は、事情判決をする場合には、当該判決の主文において、処分・裁決が違法であることを宜言しなければなりません(31条1項後段)。※2

取消訴訟の判決についてまとめると、以下のようになります。

※1具体例 例えば、高速道路の建設のために土地の収用裁決が行われたため、この収用裁決の取消訴訟が提起された場合において、審理の中でこの収用裁決が違法であることが判明したが、その時点で高速道路が完成してしまっていたときなどである。

※2 参考 処分の達法を宣言するとともに、それを理由として被告に損害賠償や防止措置を命ずることはできない。

【取消訴訟の判決】

(2)判決の効力

取消訴訟の認容判決(取消判決)が確定すると、①既判力、②形成力、③拘束力の3つの効力が生じます。

① 既判力

既判力とは、訴訟において判決が確定した場合に、当事者および裁判所が、その訴訟の対象となった事項について、異なる主張・判断をすることができなくなるという効力のことです。※3

※3 記述対策 「既判力」という用語は書けるようにしておきましょう。

② 形成力

形成力とは、処分・裁決の効力を処分・裁決がなされた当時にさかのぼって消滅させる効力のことです。

取消判決の形成力は、当事者のみならず、第三者に対しても及ぶことになります(32条1項)。これを取消判決の第三者効といいます。※4

※4 受験テクニック 取消判決の第三者効の規定は、他の訴訟類型には一切準用されないと覚えておきましょう。
取消判決の第三者効(32条)は、取消訴訟に特有の効力であり、無効等確認訴訟や義務付け訴訟など、他のいかなる抗告訴訟にも準用されない
例えば「無効等確認訴訟」は、最初から無効であることを確認する手続きであり、裁判所が新たに権利関係を変動させる(形成する)わけではないため、明文での準用規定は置かれていない。

③ 拘束力

拘束力とは、行政庁に対し、処分・裁決を違法とした判断を尊重し、取消判決の趣旨に従って行動することを義務付ける効力のことです(33条1項)。※5※6

※5 参考 判決の拘束力が生じるのは主文に限られず、主文に含まれる判断を導くために不可欠な理由中の判断についても及ぶ。

※6 受験テクニック 取消判決の拘束力の規定は、他のすべての訴訟類型に準用されると覚えておきましょう。

【拘束力の内容】

消極的効力(反復禁止効)行政庁は、取り消された行政処分と同一の事情の下で同一の理由に基づいて同一内容の処分をすることができなくなる
積極的効力申請拒否処分または審査請求の却下・棄却裁決の取消判決が確定した場合、その処分・裁決をした行政庁は、判決の趣旨に従って、改めて申請に対する処分または審査請求に対する裁決をしなければならない(33条2項)

(3)違法判断の基準

違法判断の基準時とは、処分の違法性が審理される場合、その違法はどの時点を基準にして判断すべきかという問題のことです。最高裁判所の判例は、処分時(行政処分が行われた時点)における法令や事実状態を基準にして判断すべきであるとしています(最判昭27.1.25)。なぜなら、取消訴訟はすでになされた処分の違法を事後的に争うものである以上、裁判所は処分の違法性の事後審査に留まるべきだからです。※7

※7 参考 不作為の違法確認訴訟・義務付け訴訟については、訴えの性質上、違法判断の基準時は判決時(口頭弁論終結時)となる。

5 執行停止

重要度 A

(1) 執行不停止の原則

行政の円滑な運営に支障をきたすことを防止するため、取消訴訟がなされ審理中であったとしても、処分の効力・処分の執行・手続の続行は妨げられません(25条1項)。これを執行不停止の原則といいます。※8

※8 参考 無効等確認訴訟においても、執行停止に関する規定が準用されている(38条3項)。

(2)執行停止

① 執行停止とは何か

執行不停止の原則を貫くと、取消訴訟の審理中に処分が執行され原告に損害が生じ、後日請求が認容されても、もはや原告の権利救済が実現できなくなる場合があります。

また、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法に規定する仮処分※1をすることができないとされていますから(44条)、原告は、仮処分の方法により救済を求めることはできません。そこで、原告の権利を保全するため、処分の効力・処分の執行・手続の続行の全部または一部の停止をすること(これを執行停止といいます)が認められています。※2なお、執行停止の内容は、行政不服審査法におけるものと同様です(※P220・221参照)。

※1 用語 仮処分:権利者が強制執行によって満足を得るまでの期間、義務者の財産を確保するための手段のこと。

※2 参考 処分の効力の停止は、処分の執行の停止または手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、することができない(25条2項ただし書)。
弱い手段: 「執行の停止」「手続の続行の停止」(例:取り壊し作業だけをストップさせる)
強い手段: 「効力の停止」(例:処分そのものを一時的になかったことにする)
条文のルール(25条2項ただし書)は、「弱い手段で目的を達成できるなら、強い手段(効力の停止)を使ってはいけない」

② 執行停止の要件

行政事件訴訟法における執行停止の要件は、以下のとおりです。

【執行停止の要件】

執行停止をするための要件(25条2項)①取消訴訟が適法に提起されていること※3
②重大な損害を避けるため緊急の必要があること
③原告からの執行停止の申立てがあること※4
執行停止ができない場合(25条4項)①公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあること
②本案※5について理由がないとみえること

※3 参考 執行停止の申立ては、必ずしも本案訴訟の提起と同時にする必要はなく、それ以後にすることも差し支えない。

※4 参考 申請拒否処分について執行停止をなしたとしても、申請拒否処分がなされる前の状態に戻るだけである。

※5 用語 本案:付随的・派生的な事項ではなく、その手続の主目的という意味の用詰である。ここでは取消訴訟自体を意味する。

③ 執行停止の手続

執行停止の決定は、口頭弁論を経ないですることができますが、あらかじめ、当事者の意見をきかなければなりません(25条6項)。

(3) 執行停止の取消し

執行停止の決定が確定した後に、その理由が消滅し、その他事情が変更したときは、裁判所は、相手方の申立てにより、決定をもって、執行停止の決定を取り消すことができます(26条1項)。

(4) 内閣総理大臣の異議

裁判所の権限濫用に基づく執行停止により行政が停滞することを回避するため、内閣総理大臣は、執行停止の申立てがあった場合や、執行停止の決定があった後に、裁判所に対して、異議を述べることができます(27条1項)。

内閣総理大臣の異議が述べられたときは、その理由の当否について裁判所に審査権限はなく、裁判所は、執行停止をすることができなくなり、すでに執行停止の決定をしているときは、これを取り消さなければなりません(27条4項)。※6

内閣総理大臣の異議は、執行停止の決定をした裁判所(その決定に対する抗告が抗告裁判所に係属しているときは、抗告裁判所)に対して述べなければなりません(27条5項)。

なお、内閣総理大臣は、やむをえない場合でなければ、異議を述べてはならず、また、異議を述べたときは、次の常会において国会にこれを報告しなければなりません(27条6項)。

※6 過去問チェック

内閣総理大臣の異議が執行停止決定に対して述べられたときは、その理由の当について裁判所に審査権限はなく、裁判所は、必ず決定を取り消さなければならない。

【解答】〇

【行政不服審査法と行政事件訴訟法の執行停止】

行政不服番査法行政事件訴訟法
審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁のいずれでもない
職権による執行停止可能不可
処分庁の意見聴取不要必要
執行停止義務ありなし
なしうる措置処分の効力・執行、手続の続行の停止以外の措置もなしうる ※7処分の効力・執行、手続の続行の停止のみなしうる
内閣総理大臣の異議不可可能

※7 参考 「処分の効力・執行、手続の続行の停止以外の措置」とは、営業許可取消処分に代えて一定期間の営業停止処分に変更することなどである。

確認テスト

① 取消訴訟の原告適格は、「法律上の利益を有する者」に限り認められる。

【解答】〇(9条1項)

②処分に対して審査請求をすることができる場合、国民は、審査請求を経てからでなければ、取消訴訟を提起することができないのが原則である。

【解答】✕直ちに取消訴訟を提起することができるのが原則である(8条1項本文)。

③行政事件訴訟においては弁論主義が原則とされているから、職権証拠調べは認められない。

【解答】✕職権証拠調べも認められる(24条本文)。

④取消判決の形成力は、当事者以外の第三者に対してもその効力を生じる。

【解答】〇(32条1項)

⑤償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があることが、執行停止の要件とされている。

【解答】✕重大な損害である(25条2項本文)。

「基本問題集」行政法問題58~73にチャレンジ


第3節 取消訴訟以外の抗告訴訟

重要度 B

1 無効等確認訴訟

重要度

(1)無効確認とは何か

無効等確認訴訟とは、処分・裁決の存否またはその効力の有無の確認を求める訴訟をいいます(3条4項)。行政庁がなした行政作用が無効なものであったとしても、行政庁がそれに気付かずにさらに行政作用を続ける可能性があります。そこで、このような事態を防止するため、裁判所に行政作用の無効を確認してもらうことができるとしたのが、この無効等確認訴訟です。※1 ※2

※1 具体例 例えば、課税処分が無効であることから税金を払わないでいたところ、行政庁がそれに気付かずに滞納処分をしてくるおそれがあることから、課税処分の無効等確認訴訟を提起する場合などである。

※2 参考 無効原因のある処分・裁決については、無効等確認訴訟を提起しなくても、その無効を主張することができる。

(2) 無効等確認訴訟の訴訟要件

① 原告適格

無効等確認訴訟の原告適格は、①処分・裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、②その処分・裁決の存否またはその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴え(当事者訴訟・民事訴訟)によって目的を達することができないものについて認められます(36条)。

② その他の訴訟要件

無効等確認訴訟についても、処分性の要件を満たす必要があります。また、被告適格(11条)、裁判管轄(12条)については、取消訴訟の規定が準用されます(38条1項)。

これに対して、出訴期間(14条)については取消訴訟の規定が準用されていませんので、いつでも無効等確認訴訟を提起することができます。また、審査請求前置(8条)についても取消訴訟の規定が準用されていませんので、審査請求前置を守していなくても、無効等確認訴訟を提起することができます。

(3) 無効等確認訴訟の判決

無効等確認訴訟の対象である処分・裁決に無効原因となる瑕疵がある場合、認容判決が下されることになり、無効原因となる瑕疵がない場合、棄却判決が下されることになります。

2 不作為の違法確認訴訟

重要度 B

(1)不作為の違法確認とは何か

不作為の違法確認訴訟とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分・裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいいます(3条5項)。※1

不作為の違法確認訟は、国民の申請に対して行政庁が不相当に長期にわたり話否の決定をせず放置している場合に、申請の握りつぶしという不作為状態の違法を確認することで、申請者の権利利益の保護や行政の事務処理の促進を図るものです。※2

※1 参考 行政手続法の定める標準処理期間を経過した場合でも、直ちに「相当の期間」が経過したことにはならない。

※2 参考 不作為の違法確認訴訟は、単独で提起することができ、対象となる処分の義務付け訴訟を併合して提起する必要はない。

【問題】不作為の違法確認の訴えは、処分または裁決についての申請をした者に限り提起することができるが、この申請が法令に基づくものであることは求められていない。[R4-17-3]

【答え】×

【解説】不作為の違法確認の訴えを提起できるのは、法令に基づき処分または裁決についての申請をした者だけである。

(2) 不作為の違法確認の訴訟要件

① 原告適格

不作為の違法確認訴訟の原告適格が認められるのは、処分・裁決についての申請をした者です(37条)。

② その他の訴訟要件※3

被告適格(11条)、裁判管轄(12条)については、取消訴訟の規定が準用されます(38条1項)。

これに対して、出訴期間(14条)については取消訴訟の規定が準用されていませんので、不作為状態が継続している間は、いつでも不作為の違法確認訴訟を提起することができます。

※3 参考 不作為の達法確認訴訟の達法判断の基準時は口頭弁論終結時であるから、当該訴訟の係属中に行政庁が何らかの行為をすると、訴えの利益が消滅し、却下判決がなされる。

【問題】不作為の違法確認訴訟自体には出訴期間の定めはないが、その訴訟係属中に、行政庁が何らかの処分を行った場合、当該訴訟は訴えの利益がなくなり却下される。[H20-16-5]

【答え】◯

【解説】不作為の違法確認の訴えには、出訴期間の制限はない。
訴訟係属中に、行政庁が何らかの処分を行えば、訴えの利益がなくなり却下される

3 義務付け訴訟

重婆度 A

(1) 義務付け訴訟とは何か

不作為の違法確認訴訟は、申請に対して何らかの処分をすることを促すにとどまる消極的なものであり、救済手段としての効果は限定されています。そこで、行政庁に対して一定の処分・裁決をすべき旨を命ずることを求める義務付け訴訟が法定されています。

義務付け訴訟には、①法令に基づく申請を前提としない非申請型(3条6項1号)と、②法令に基づく申請がされたことを前提に、申請者がその申請を満足させる行政庁の応答を求める申請型(3条6項2号)があります。※4

※4 具体例 非申請型の例としては、違法建築物の除却を命ずる権限の行使を求めて周辺住民が義務付け訴訟を提起する場合が、申請型の例としては、年金給付を求める申請が拒否されたため申請者が給付決定を求めて義務付け訴訟を提起する場合がある。

【義務付け訴訟】

非申請型行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないときに行政庁がその処分・裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟
申請型行政庁に対し一定の処分・裁決を求める旨の法令に基づく申請・審査請求がされた場合において、当該行政庁が処分・裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないときに

(2)義務付け訴訟の訴訟要件

義務付け訴訟の訴訟要件は、非申請型と申請型で以下のように異なっています。

【義務付け訴訟の訴訟要件】※1

非申請型申請型
要件一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、その損害を避けるため他に適当な方法がないこと(37条の2第1項)※2①法令に基づく申請・審査請求に対し、相当の期間内に何らの処分・裁決がなされないこと(不作為型:37条の3第1項1号)②法令に基づく申請・審査請求を却下・棄却する旨の処分・裁決が取り消されるべきものであり、または無効・不存在であること(拒否処分型:37条の3第1項2号)
原告適格行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者(37条の2第3項)法令に基づく申請・審査請求をした者(37条の3第2項)
併合提起不要不作為型の場合は不作為の達法確認訴訟、拒否処分型の場合は取消訴訟または無効等確認訴訟(37条の3第3項)※3 ※4

なお、被告適格(11条)、裁判管轄(12条)については、取消訴訟の規定が準用されます(38条1項)。これに対して、出訴期間(14条)については取消訴訟の規定が準用されていません(取消訴訟を併合提起した場合は、その取消訴訟が出訴期間の制限を受けます)。

※1 記述対策 義務付け訴訟の訴訟要件は、非申請型と申請型に分けて書けるようにしておきましょう。

※2 参考 「他に適当な方法」とは、①特別の権利救済手段が法律で設けられている場合、②不利益処分について取消訴訟による救済が可能な場合、③申請型義務付け訴訟の提起が可能な場合である。

※3 参考 申請型義務付け訴訟のみを単独で提起することはできないが、取消訴訟のみを単独で提起することはできる。

※4 参考 仮の義務付けを申し立てる場合に、執行停止の申立てを併合して提起しなければならないとする規定はない。

【問題】義務付け訴訟は、行政庁の判断を待たず裁判所が一定の処分を義務付けるものであるから、申請型、非申請型のいずれの訴訟も、「重大な損害を生ずるおそれ」がある場合のみ提起できる。【R2-19-5]

【解答】×

【解説】
①義務付けの訴えとは、行政庁に対して処分または裁決をするように命じることを求める訴訟である。
②非申請型義務付け訴訟は、行政庁が処分をしないと重大な損害発生のおそれがあり、損害回避のため他に適な方法がない場合に、法律上の利益のある者が提起できる。

(3) 義務付け訴の判決

行政庁がその処分をすべき旨を命ずる判決(義務付け判決)がなされるのは、①行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠法令の規定から明らかであると認められるとき(処分につき行政裁量が認められない場合)または②裁量権の逸脱・濫用となると認められるとき(処分につき行政裁量が認められる場合)です(37条の2第5項、37条の3第5項)。

なお、申請型義務付け訴訟の場合、併合提起された訴訟に係る請求に理由があると認められることも必要です(37条の3第5項)。

4 差止め訴訟

重要度 A

(1)差止め訴訟とは何か

差止め訴訟とは、行政庁が一定の処分・裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分・裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいいます(3条7項)。差止め訴訟は、公権力の行使による国民の権利利益の侵害を未然に防ぐために法定されたものです。※5

※5 参考 原子炉施設の連転の差止めを運転者に対して求める周辺住民の訴えは、原子炉施設の連転許可という処分ではなく、連転自体の差止めを求めるものであるから、抗告訴訟としての差止め訴訟ではなく、民事上の差止め訴訟に当たる。

(2)差止め訴訟の訴訟要件

一定の処分・裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあるときは、原則として、差止め訴訟を提起することができます(37条の4第1項本文)。※6しかし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、差止め訴訟を提起することができなくなります(37条の4第1項ただし書)。

差止め訴訟を提起することができるのは、行政庁が一定の処分・裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者です(37条の4第3項)。※7なお、被告適格(11条)、裁判管轄(12条)については、取消訴訟の規定が準用されます(38条1項)。これに対して、出訴期間(14条)については取消訴訟の規定が準用されていませんから、差止め訴訟は期間の制限なく提起することができます。

※6 記述対策 差止め訴訟の訴訟要件は書けるようにしておきましょう。

※7 参考 法律上の利益の有無の判断については、取消訴訟の原告適格の規定(9条)が準用される(37条の4第4項)。

最重要判例

◯懲戒処分差止訴訟と義務不存在確認訴訟(最判平24.2.9)

事案 教育委員会の教育長は、各校長宛てに、学校行事において教職員に国歌の起立斉唱等を義務付ける通達を発し、学校行事の都度、各校長は、当該通達を受けた職務命令 ※8を発し、教育長は、職務命令違反の教職員らを懲戒処分とした。そこで、教職員らは、国歌の起立斉唱等をする義務の不存在確認訴訟およびこれらの義務違反を理由とする懲戒処分の差止め訴訟を提起した。

結論 懲戒処分差止訴訟は適法、無名抗告訴訟としての義務不存在確認訴訟は不適法、公法上の当事者訴訟としての義務不存在確認訴訟は適法

懲戒処分差止訴訟 ∵「他に適切な方法がない」から(補充性の要件)

判旨
①懲戒処分差止の適法性

本件通達をもって、本件職務命令と不可分一体のものとしてこれと同視することはできず、本件職務命令を受ける教職員に条件付きで懲戒処分を受けるという法的効果を生じさせるものとみることもできないから、処分性は認められない。
また、本件職務命令も、職務の遂行の在り方に関する校長の上司としての職務上の指示を内容とするものであって、教職員個人の身分や勤務条件に係る権利義務に直接影響を及ぼすものではないから、処分性は認められない。
裁判所は「通達」も「職務命令」も、それ自体が教職員の権利を直接奪うものではない(=処分性がない)

本件通達および本件職務命令は行政処分に当たらないから、取消訴訟および執行停止の対象とはならないものであり、懲戒処分の予防を目的とする事前救済の争訟方法として他に適当な方法があるとは解されないから、本件では懲戒処分の取消訴訟等および執行停止との関係でも補充性の要件を欠くものではない。

※通達や職務命令の取消訴訟は提起できないし、他に適切な予防方法もない。将来受ける『懲戒処分』を止めるための差止訴訟は見認められる(補充性の要件)

②無名抗告訴訟としての義務不存在確認訴訟の適法性

無名抗告訴訟は行政処分に関する不服を内容とする訴訟であって、本件通達および本件職務命令のいずれも抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない以上、無名抗告訴訟としての本件確認の訴えは、将来の不利益処分たる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟として位置付けられるべきものと解するのが相当であり、本件においては、法定抗告訴訟である差止め訴訟との関係で事前救済の争訟方法としての補充性の要件を欠き、不適法というべきである。

「無名抗告訴訟」とは、法律に名前が載っていない特殊な抗告訴訟(行政の行為に文句を言う訴訟)である
裁判所は、この訴訟の目的は、『懲戒処分をされたくない』ということ」と考え「『懲戒処分をされたくない』という目的なら、『差止訴訟』という法律に定められた正式な方法があるため特殊な訴訟(無名抗告訴訟)を使うことはできないと判断した。

③公法上の当事者訴訟としての義務不存在確認の適法性

本件通達を踏まえた本件職務命令に基づく公的義務の存在は、その違反が懲戒処分の処分事由との評価を受けることに伴い、勤務成績の評価を通じた昇給等に係る不利益という行政処分以外の処遇上の不利益が発生する危険の観点からも、教職員の法的地位に現実の危険を及ぼし得るものといえるので、このような行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする訴訟として構成する場合には、公法上の事者訴訟の一類型である公法上の法律関係に関する確認の訴えと解される。

「当事者訴訟(行政と国民が対等な立場で、法律関係を確認する)」という構成。
裁判所は、教職員が受ける不利益は「懲戒処分」だけではなく、命令に従わなかったことで、人事評価(勤務成績)が悪くなり、その結果、昇給や昇進で不利になるといった「行政処分以外の不利益」が発生する危険があると認定した。この「人事評価で不利になる」といった不利益は、「差止訴訟」では防ぐことができない(差止訴訟は、あくまで「懲戒処分」という行政処分を止めるもの)。

本件職務命令に基づく公的義務の不存在の確認を求める本件確認の訴えは、行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとしては、その目的に即した有効適切な争方法であるということができ、確認の利益を肯定することができる。
裁判所は、「懲戒処分以外の不利益を防ぐためには、『そもそも起立する義務があるのかないのか』をハッキリさせる必要がある。その目的のためなら、この訴え(当事者訴訟)は有効で適切な手段だ」と認めた。 「確認の利益がある」

※8用語 職務命令:上司の公務員が部下の公務員に対し、その職務に関して発する命令のこと。公務員は、適法な職務命令については、忠実に従わなければならない(国家公務員法98条1項、地方公務員法32条)。

最重要判例

◯差止めの要件(最判平28.12.8)

事案 飛行場の周辺に居住する住民が、航空機の騒音により精神的・身体的被害を受けていると主張し、国に対して航空機の運航の差止め訴訟を提起した。

結論 差止め訴訟は適法

【論点】こ「飛行機の騒音がうるさくて、眠れない・不安だ」という住民の被害が、法律(行政事件訴訟法)が差止めを認める条件である「重大な損害」に該当するのか?
→該当する

判旨

①差止め訴訟の訴訟要件

処分がされることにより「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには、処分がされることにより生するおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要する。

【参考】差止めが認められる「重大な損害」とは?(一般論)
「重大な損害」とは、単に被害が大きいことだけを意味するのではなく「事後的な救済では手遅れ(または不十分)」であること、
(従来の救済)処分が行われる(後から)取消訴訟や執行停止を申し立てるという「後追いの救済」では、もはや取り返しがつかな*性質の損害であること

②本件へのあてはめ

原告らは、本件飛行場に係る第一種区域内に居住しており、本件飛行場に離着陸する航空機の発する騒音により、睡眠妨害、聴取妨害および精神的作業の妨害や、不快感、健康被害への不安等を始めとする精神的苦痛を反復継続的に受けており、その程度は軽視し難いものというべきであるところ、このような被害の発生に自衛隊機の連航が一定程度寄与していることは否定し難い。また、上記騒音は、本件飛行場において内外の情勢等に応じて配備され運航される航空機の離着陸が行われる度に発生するものであり、上記被害もそれに応じてその都度発生し、これを反復継続的に受けることにより蓄積していくおそれのあるものであるから、このような被害は、事後的にその違法性を争う取消訴訟等による救済になじまない性質のものということができる。

【解説】被害の性質が「取り返せない」
騒音被害(睡眠妨害、精神的苦痛)は、飛行機が飛ぶたびに「反復・継続」して発生する。
その被害は「蓄積」していく。「後追い救済」では意味がない
将来の運航を止める「執行停止」を後から勝ち取ったとしても、それまでに受けた被害は回復不能。
→「反復・継続・蓄積」するタイプの被害は、「事後的な救済になじまない性質」のものである

(3) 差止め訴訟の判決

行政庁がその処分・裁決をしてはならない旨を命ずる判決(差止め判決)がなされるのは、
①行政庁がその処分・裁決をしてはならないことがその処分の根拠法令の規定から明らかであると認められるとき(処分につき行政裁量が認められない場合)または
②裁量権の逸脱・濫用となると認められるとき(処分につき行政裁量が認められる場合)です(37条の4第5項)。

5 仮の義務付け・仮の差止め

重要度 A

仮の義務付けとは、義務付け訴訟(申請型・非申請型のいずれも可)を提起したものの、その判決を待っていたのでは間に合わないような場合に、仮に行政庁がその処分・裁決をすべき旨を命ずることです。※1

また、仮の差止めとは、差止め訴訟を提起したものの、その判決を待っていたのでは間に合わないような場合に、仮に行政庁がその処分・裁決をしてはならない旨を命ずることです。※2

仮の義務付け・仮の差止めと執行停止との違いについては、以下の表のとおりです。

※1 具体例 例えば、障害のある児童につき保育園への入園を承諾する処分を仮に義務付ける決定などである。

※2 具体例 例えば、市立保育所を令和6年3月31日限り廃止する旨の処分をしてはならない旨の決定などである。

【執行停止と仮の義務付け・仮の差止め】

重大な損害<<償うことのできない損害

執行停止仮の義務付け・仮の差止め
するための要件①取消訴訟を提起したこと(25条2項)②重大な損害を避けるため緊急の必要があること(同上)③執行停止の申立てをしたこと(同上)義務付け訴訟・差止め訴訟を提起したこと(37条の5第1項・2項)②償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること(同上)③仮の義務付け・仮の差止めの申立てをしたこと(同上)④本案について理由があるとみえること(同上)※3
できない場合①公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき(25条4項)②本案について理由がないとみえるとき(同上)※3公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき(37条の5第3項)
內閣絲理大臣の異議可能(27条、37条の5第4項)

※3 よくある質問
Q執行停止は「本案について理由がないとみえるとき」にはできないとされ、仮の義務付け・仮の差止めは「本案について理由があるとみえること」がするための要件とされていますが、これって何が違うんですか?
A執行停止の場合、行政側が「本案について理由がないとみえること」を疎明しない限り、認められます。他方、仮の義務付け・仮の差止めの場合、原告側が「本案について理由があるとみえること」を疎明しなければなりません。

解答 確認テスト

①無効確認訴訟は、当該処分・裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分・裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分・裁決の存否またはその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り、提起することができる。

【解答】◯36条

②不作為の違法確認訴訟は、処分または裁決についての申請をした者に限り、提起することができる。

【解答】〇37条

③申請型義務付けの原告適格が認められるのは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者である。

【解答】✕法令に基づく申請・審査請求をした者である(37条の3第2項)

④差止め訴訟の原告適格が認められるのは、行政庁が一定の処分・裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者である。

【解答】〇37条の4第3項

⑤仮の義務付けや仮の差止めの要件として、本案について理由があるとみえることが必要である。

【解答】〇37条の5第1項・2項

「基本問題集」行政法問題74~81にチャレンジ

【問題】仮の差止めは、緊急の必要があるときは、本案訴訟である差止めの訴えに先立って、申し立てることができる。[H29-19-4]

【答え】×

【解説】②申立てができるのは、義務付けの訴え・差止めの訴えの提起後である。

【問題】申請型と非申請型(直接型)の義務付け訴訟いずれにおいても、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」ことなどの要件を満たせば、裁判所は、申立てにより、仮の義務付けを命ずることができることとされている。[H25-16-4]

【答え】◯

【解説】⑧仮の義務付け・仮の差止めを命ずるには、償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえる必要がある。


第4節 当事者訴訟

重要度 B

1当事者訴訟とは何か

重要度 B

(1) 当事者訴訟とは何か

当事者訴訟とは、権利義務の主体が対等な立場で法律関係について争う訴訟のことです。

取消訴訟は、行政庁が公権力の行使として一方的に国民に対してなした処分・裁決という行為自体を直接に争う訴訟であるのに対し、当事者訴訟は、行政主体などと国民が対等な立場で法律関係について争う訴訟です。

(2)当事者の種類

当事者訴訟には、形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟の2種類があります。

2 形式的当事者訴訟

重要度 B

(1) 形式的当事者訴訟とは何か

形式的当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確認しまたは形成する処分・裁決に関する訴訟で、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもののことです(4条前段)。これは、処分・裁決の効力を争う点で実質的には抗告訴訟であるものの、立法政策上、当事者訴訟の形式をとるべきとされているものです。※1

※1 参考 形式的当事者訴訟が提起された場合、裁判所は、処分・裁決をした行政庁にその旨を通知することとされている(39条)。

(2) 形式的当事者訴訟の具体例

事例 A県収用委員会が、B市の申請に基づき、同市の市道の用地として、B市が2000万円の損失補償をすることによって✕所有の土地を収用する旨の収用裁決をなした。しかし、✕は、収用裁決における2000万円という補償金額は不服であり、もっと増やしてほしいと考えていた。

上の事例において、Xは、収用裁決に不服があるわけですから、本来ならば、収用裁決の取消訴訟を提起することになるはずです。

しかし、収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、これを提起した者が起業者※2であるときは土地所有者または関係人を、土地所有者または関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければなりませんから(土地収用法133条3項)、Xは、2000万円という補償金額に不服がある場合には、起業者であるB市を被告として訴えを提起することになります。 ※3

このように、収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、実質的には収用裁決の取消訴訟であるものの、土地収用法という法律によって、補償金の支払いに関する事者間(土地所有者・起業者間)で直接争うべきとされていますから、形式的事者訴訟に当たります。

※2 用語 起業者:土地収用法による収用が必要な事業を行う者のこと(土地収用法8条1項)。

※3 過去問チェック 収用委員会の収用裁決によって決定された補償額に起業者が不服のある場合には、土地所有者を被告として、その減額を求める訴訟を提起すべきこととされている。

【解答】◯

3 実質的当事者訴訟

重要度 B

(1) 実質的当事者訴訟とは何か

実質的当事者訴訟とは、公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟のことです(4条後段)。したがって、
行政主体と一般国民との間における対等当事者としての法律関係に関する訴訟であっても、私法上の法律関係に関する訴訟は、実質的当事者訴訟ではなく民事訴訟となります。

(2)実質的事者訴訟の具体例 ※1

実質的当事者訴訟の具体例としては、日本国籍を有することの確認の訴え(最大判平20.6.4)、在外国民の選挙権確認の訴え(最大判平17.9.14)などがあります。

なお、土地収用法に基づく収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えのように、個別法の中に損失補償に関する規定がある場合は、形式的当事者訴訟となりますが、個別法の中に損失補償に関する規定がない場合に、憲法29条3項に基づいてなした損失補償請求の訴えは、実質的当事者訴訟となります。

※1 参考 実質的当事者訴訟の例を請求上の内容に性質に照らして見ると、国籍確認を求める訴えのような確認訴訟のほか、公法上の法律関係に基づく金銭の支払を求める訴え(例:憲法29条3項に基づいてなした損失補償請求の訴え)のような給付訴訟もある。
憲法29条3項に基づく損失補償請求訴訟は、適法な行政行為に対する「金銭給付」を求める訴訟であり、その実質は公法上の当事者訴訟(給付訴訟的な要素を持つ)として位置づけられる

解答 確認テスト

①当事者訴訟には、形式的当事者訴訟と実質的当事者訴の2種類がある。

【解答】〇(4条)

② 形式的当事者訴訟とは、公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟のことである。

【解答】✕実質的当事者訴である。なお、形式的当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確認しまたは形成する処分・裁決に関する訴訟で、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもののことである。

「基本問題集」行政法問題82~83にチャレンジ


第5節 民衆訴訟・機関訴訟

重要度 C

1 民衆訴訟

民衆訴訟とは、国または公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいいます(5条)。民衆訴訟の具体例としては、地方自治法上の住民訴訟(242条の2)、公職選挙法上の選挙・当選の効力に関する訴訟(203条、204条、207条、208条)などがあります。
「自分の権利が侵害されたわけではない人(法律上の利益がない人)」でも、選挙人などの資格で訴えることができる

2 機関訴訟

重要度C

機関訴訟とは、国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟をいいます(6条)。

機関訴訟の具体例としては、
・地方自治法上の市町村の境界に係る都道府県知事の裁定に対して関係市町村が提起する訴え(9条8項)、
・議会の議決・選挙に関する訴訟(176条7項)、
・国や都道府県の関与に対して地方公共団体の機関が取消しを求める訴訟(251条の5、251条の6)など
があります。

確認テスト

①民衆訴訟とは、国または公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわる資格で提起するものをいう。

【解答】✕自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものである(5条)。

②機関訴訟の具体例としては、地方自治法上の住民訴訟や、公職選挙法上の選挙・当選の効力に関する訴訟などがある。

【解答】✕民衆訴訟の具体例である。

「基本問題集」行政法問題84にチャレンジ


第6節 教示

重要度 B

1 教示とは何か

重要度 B

教示とは、処分の相手方など国民に対して、訴訟による救済が受けられることを知らせる制度です。

この教示制度は、行政事件訴訟をより利用しやすくわかりやすくするためのものです。

2教示の内容

重要度 B

(1)取消訴訟

行政庁は、取消訴訟を提起することができる処分・裁決を書面でする場合、①被告とすべき者、②出訴期間、③審査請求前置主義が採用されている場合はその旨、④裁決主義が採用されている場合はその旨を、書面で教示しなければなりません(46条1項本文・2項本文)。※1

もっとも、処分が口頭でされる場合には、教示義務を負いません(46条1項ただし書・2項ただし書)。なぜなら、口頭で行われる処分は、比較的軽いものが多いからです。

※1 参考 取消訴訟と併せて国家賠償法1条に基づいて国家賠償請求訴訟を提起することができる旨を教示する義務はない。

(2) 形式的当事者訴訟

行政庁は、形式的当事者訴訟を提起することができる処分・裁決を書面でする場合、①被告とすべき者、②出訴期間を、書面で教示しなければなりません(46条3項本文)。

もっとも、処分が口頭でされる場合には、教示義務を負いません(46条3項ただし書)。

【行政不服審査法と行政事件訴訟法の教示】

行政不服審查法行政事件訴訟法
処分の相手方教示義務あり ※口頭で処分をする場合は、教示義務なし
利害関係人教示を求められた場合、教示義務あり ※書面による教示を求められた場合、書面による教示が必要教示義務なし ※2
誤った教示などの救済規定ありなし ※3

※2 過去問チェック

【問題】当該処分または裁決の相手方以外の利害関係人であっても、教示を求められた場合には、当該行政庁は教示をなすべき義務がある。

【解答】✕

※3 過去問チェック

誤った教示をした場合、または教示をしなかった場合についての救済措置の規定がおかれている。

【解答】✕

解答 確認テスト

① 処分が口頭でされる場合、行政庁は教示義務を負わない。

【解答】◯(46条1項~3項ただし)

② 行政庁は、実質的当事者訴訟を提起することができる処分を書面でする場合、被告とすべき者や出訴期間を書面で教示しなければならない。

【解答】✕形式的当事者訴を提起することができる処分を書面でする場合である(46条3項本文)。

「基本問題集」行政法問題85にチャレンジ

形式的当事者訴訟:行政訴訟の中でも特に分かりにくい制度であるため書面での教示が義務付けられている
(例:土地収用) 土地収用委員会が「Aさんの土地を収用し、補償金は1,000万円とする」という裁決(処分)をしたとします。 Aさんが「補償金が安すぎる!」と不満を持った場合、Aさんは裁決をした「土地収用委員会」を訴えるのではなく、土地を欲しがっている「事業者(○○開発など)」を相手取って、「補償金を増額しろ」という訴訟(形式的当事者訴訟)を起こさなければなりません。